音楽劇の作り方④ ~音楽計画と音楽制作~

 ブログ6日目。

100日目に死ぬワニの100日目が今日だった。なかなか心にダメージのくるラストでやはりしんどかった。

ワニが生きた100日間で私は3曲新しく曲を書いた。もう少し頑張れればよかったけど。仕方ない。ワニは死んでしまった。

 

さて今日はいよいよ音楽計画と作曲に入っていく。

 

 作業工程④⑤  音楽計画~音楽制作/あらすじの仮決定・セリフ決め

前回の記事ではシナリオ作りについて書いたが、4月頃に出来上がったストーリを大まかな台本ーあらすじのようにまとめ、次の段階である音楽の計画へと移行した。

 

<音楽計画表>

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これが実際に作成した音楽計画表だ。

1番左の枠がストーリーに沿った舞台上の動きや演出。真ん中は音楽と効果音の入れ方について書かれており、右の枠には音楽の内容を書き込んだ。

また縦が時間軸となっており、下に行くにつれて時間が流れていく。

 

音楽計画では出来上がったあらすじを第1部から第3部までに分け、更に第2部を1~3までのシーンに分け細分化し、各々のシーンごとにどのような音楽をつけるのか、無音なのか、効果音を付けるのかなど、音楽面の構成を決めた。

また同時に、曲のイメージや曲中に起こる出来事・動作・モチーフなど、内容にかかわる部分や、曲間同士をアタッカにするか終止させるかなどを計画した。

 

実際はストーリーも音楽の内容もこの通りにはならなっかったのだが、これを元に書き上げた音楽に伴い少しずつストーリーも完成されていったため、この作業は非常に有用だったと言えよう。

さてここから、実際にどのような書き込みをしたか細かく見ていこうと思う。また、曲ごとに曲を作るうえで意識したことや反省点など振り返ろうと思う。

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↑私と城谷さんは昨年4月から7月にかけてピアノを囲んで共作していた。隣で作曲科が作曲しているのを見るだけで勉強になった。

<第1部>

音楽計画

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 1部は「セリフを使わず、音と動きのみで演じる」というシーン。大まかな主人公の動きと演出をヒントにして計画を立てた。

 

マヤの「スタジオに入った瞬間からもう世界観を感じれるようにしたい。」という言葉からSE-1という効果音を開場前から流しておくことに。

この効果は虫の音や秋の夜をイメージしたものを計画していた。

 

当時の計画では、主人公が登場してからM01で「つまらない日常」を表し、そしてM02を間奏曲とし夢の中に入っていく描写を行う。M02では映像と曲を同期させることもこの時決まった。M02は日常の風景と、いつもと違う風景の対比を作るということがキーポイントになった。

 

この部分は10月の段階まで演出に悩んでいたこともあり、当初の予定とは異なるものになった。

M01は前奏曲としてお客さんが「劇が始まった」と思えるものにした。そうすることによって、主人公が客席でスマホを鳴らすという非常識な行動を際立たせることが出来た。また、M01とM02はつながる予定だったのだが先述した理由により、完全に曲を分け、間に町の雑踏の効果音を流すことになった。

 

このシーンは演出がなかなか定まらなかったため、初期構想とは異なる形となった。しかしながら、この計画のおかげで曲を書くヒントになったとも言える。

 

<第1部 作曲>

SE-1

開場から開演までを想定していたため、20分弱と長い効果音になった。

演奏が始まったらPAでフェードアウトするという手法を取ることにし、また、夏っぽい夜の虫の音を想定していたため、リリリリ...という音に少し風に揺れる木々の音を混ぜたのだが、11月になり少し季節外れ感が出てしまった。

照明の木漏れ日の感じも合わさり、目標である「スタジオに入った瞬間から世界に入り込める」演出をできたのではないか。

 

M01 Prelude「予感」(作曲:佐藤匠

先述した通り、書いた当時は主人公がつまらない日常を彷徨うな印象の曲を目指した。

しかしながら演出が決まっていくと必要ないと分かり、前奏曲としてお客さんの集中を引き出すためのものになった。

開演のアナウンスを使わないという演出が出来たのもこの曲のおかげで、弱音からそっと始まるこの曲が演奏されるとお客さんはすっと静まり、音大で公演したのもありお客さんが「音楽を聴くモード」になったように感じた。この曲のあとの「主人公がスマホを鳴らす演出」も非常に効果的に映え、マヤを鋭い視線で睨み付ける人もいたという。大成功だ。

曲については、明るくもなく暗くもない、少し不安になる和声付けと音の揺れをテーマに、「日常と、かすかに感じる何かの予感に揺れる主人公の心」を表した。

 

SE-7

音楽計画には存在しなかった効果音で、第1部の演出が決まってから町の雑踏の音が欲しいとなったため作成した。フェードイン・フェードアウトはあらかじめ付けていたためPAでの操作はON/OFFのみ。

途中に踏切と電車の音があり、電車の通る音にパンを振ったため、会場内のお客さんにはあたかも自分も踏切の前にいる感覚になっただろう。

 

M02 Intermezzo「森へ」(作曲:城谷伶 佐藤匠

夢の世界へ入っていく導入の音楽。

大きく分けて3つのシーンがある。「意識が薄れて、夢の中に少しずつ引き込まれていく"揺れ"のシーン」「種から木々が育ち次第に現実の世界を侵食していくシーン」「木々が森になり、夢の世界が完成されるシーン」の3つだ。

前半を城谷さんが、後半を私が担当した。前半は完全系の和音や半音階による和声付けを行い、後半は移調の限られた旋法の第2旋法とリディア旋法を使い、それぞれ神秘的な雰囲気と光の調節を行った。特に後半はRavelの「ダフニスとクロエ」のオーケストレーションを参考にした。

なお映像と同期させる関係上、リズムとシーケンスを組み使用した。細かいテンポの揺れを作るためテンポ設定は1小節内で3~4回と細かく設定した。

音楽制作をはじめてかなり初期の頃に書いた曲であるがゆえ、あまりライトモチーフを使えなかったというのが反省点の1つのように思う。

 

<2部 シーン1>

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ここから泉の精も登場し、動作が多くなってくる。また、途中からセリフもあり歌もあるため、構成自体はすぐに思いついた記憶がある。

 

2部に入ってからはじめの歌を歌うまでの間(M03~M04)、主人公と泉の精が踊るのだが、言葉を使わず体の動作だけで伝えるということで、作曲チームは3つのシーンに細分化し、それぞれ「踊りのシーン」「パントマイム(まるで話しているかのような音楽)シーン」「主人公が、泉の精から貰った花に魅了されて少し明るくなるシーン」とイメージ付けをした。

 

そこから作曲を始めたが、第1案は少し明るすぎるということで全て破棄し、シーンのストーリー自体は大きく変えず、主人公の不安が伝わるようにというコンセプトで第2案を書き完成に至る。

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↑変更したあとのM05までの流れ。作っていた当時は変更はやめてくれよと思っていた。結果的にいいものが書けたけれど。 

 

またM03~M04はM05「花」が先に完成していたことから、それにつながる形で書けるようにと構成された。(前回の記事で紹介した曲だ。)

 

M05「花」の歌が終わった後、この劇で最初のセリフが入ることもあり、この部分の音楽(M06)はセリフが確定してからセリフに沿って作られることが決まった。

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↑この部分のセリフは、演技チームの2人に作ってもらったものを急いでメモり尺が合うように曲を作った。

 

M07はデュエットソングで、まだ歌詞が決まっていなかったことと、歌については私が担当であったため、計画段階では保留にしている。

この段階ではM07で1度終止させる予定であったが、これも結局覆りアタッカすることになった。予定は未定。

 

<第2部 シーン2 作曲>

SE-2

目を覚ましてから、夢の中の不気味な森の様子を表すために使われた。

ビニール袋をカシャカシャする音やビー玉を転がす音など幾つかサンプリングし、加工して木々のざわめきの音を作ったり、何かがコツコツと鳴る音などを制作した。

音の密度の調節が難しく、鳴らし過ぎても少なすぎても雰囲気がでないので試行錯誤を繰り返した。

演奏上の特徴として、エレクトーンの演奏(即興)とこのSEが被るというのが挙げられる。主人公の動きに合わせることを意識し、融通が利くように制作した。

 

M03 「目覚め」(作曲:佐藤匠

完成版では、夢の世界の森に迷い込んだ主人公が起きる場面から、泉の精が登場するシーンまでがこの曲の部分だ。

特徴は即興要素が殆どを占めている点だ。動作と合わせたりお互いのキューになる音群を作っておき、その他は舞台上を見ながら動作に合わせて即興的に演奏するという体裁をとった。

作曲の仕方としては、まず軸となる音楽を作り楽譜にし、そこにどんな動作を入れるかを相談し演出を決め、その上で即興をしていくといった感じだった。あくまでも音楽先行で制作し、演出が決まりしだいそれに沿わせるイメージだ。

無調でフリーテンポ。

 

M04 「暗闇の踊り」(作曲:佐藤匠

「何か見えないものに触られるような不安感」をお題に作った。拍子は7拍子で3+4と4+3の2種類を使った。また、移調の限られた旋法の第1番(全音音階)を使い、安定しないふわふわした感じを演出した。途中にはモチーフを伏線のように使い曲に意味を与えた。

曲の後半では、「こういう演出をしたい」とはっきりしていたため、それに合わせた曲作りをした。主人公が泉の精に抱きしめられ、ゾワゾワとする感覚を駆け上がる不気味なパッセージを使って表し、また泉の精が主人公に花を渡すシーンでは、まるで一筋の光が降りて来たかのような明るさを、ヴァイオリンの高音の保続とハープのグリッサンド、劇中で最初となる調性の使用などにより表現した。

1度没案を書いていたこともあり、制作の終わりの方に書いた曲だが、完成度の高い曲になった。また、「動きとのアンサンブル」がとても上手くいった部分でもあり、バレエ的要素の多い曲だ。

 

M05 Menuet「花」(作曲:佐藤匠

初めて主人公が声を発し、歌う曲だ。何度も歌詞と編曲の変更があり、最初に書き上げたものとはかなり異なる形で本番を迎えた。

曲の前半は旋法を多用し調性が非常に不安定であり、主人公の心を表している。後半になると、優しい響きのするF durに落ち着き、サビになるとこの劇中に何度も使われる「花のモチーフ」の元となるフレーズが奏される。その他にも様々な部分が他の曲で引用されている。

作曲は2019年3月下旬ーすなわち丁度1年前ーに行われ、インスピレーションを広げこの劇のイメージを作り上げた核と言っても過言ではないだろう。

初めて歌曲を書くことになり探り探りではあったが、合唱曲などを幾つか分析をし勉強した。また、マヤの声域や声の特徴を私がよく知っていたのもあり、マヤの歌のいいところをふんだんに生かせたのではないかと考えている。

 

M06(作曲:佐藤匠

セリフシーンであるため音楽自体の内容は薄く、次のM07の調へ繋げることを意識して作曲した。セリフや登場人物の気持ちによって音楽のテンションが変化するように、曲の後半はDominant上での対位法的な上行音型を用いた。

泉の精が「私もいるよ!」と主人公に語り掛け、主人公がはっと気づくシーンで弦のトレモロのfpに切り替わるシーンは作った自分でも気に入っている。

 

M07「夢」(作曲:佐藤匠

主人公と泉の精のデュエットソング。

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↑歌詞を練っていたころのノートこの曲は非常に難航した曲の1つだ。

歌詞の原案をマヤから貰ったのは5月頃であったが、自由詩であったためフレーズづくりが難しく、私が再構成をした。

歌詞作りのポイントとなったのは、2人の言う「夢」について、異なる点と共通する点をはっきりさせることであった。「夢」という言葉にも"寝るとみる夢"と"願望の方の夢"とで2つの意味を持たせ対比させた。

作曲についてはマヤとヒナの音域の差を生かすため、マヤのソロではC dur。ヒナのソロではEs dur。2人のDuoではFis durで2声部書くことにした。

M05に比べ「言葉」に対して敏感になり、例えば「夢」と歌う部分は下降音型にならぬように、「これから」という言葉に対しては、前向きに聞こえるよう上行音型を使用した。また、Aメロの「C~D~G」という音列はこの後に出てくるM12で主題として使用している。

この曲で難しかったのはやはり2声部作るところだろう。それぞれがメロディックでならないと成立しないが、連続が出来てしまったり、中々上手くいかなかった。また、ドミナントで2声のハーモニーを3度にするか4度にするかなど、響きについてかなり考えさせられた。

 

 

劇の半分で今日はここまで。

それでは。