音楽劇の作り方⑤ ~音楽計画と音楽制作 その2~

ブログ7日目。土日はサボり...もとい休息日にした。

世の中のブロガーやYoutuberは定期更新していて凄いなぁと感心する。毎日3000字程度なら余裕だろうと思っていたが、昔の資料を引っ張り出してきてまとめ文字にしていく作業は思いの他大変だった。

 

さて、今日は前回の続きの音楽計画と作曲についてまとめる。

 

<第2部 シーン2>

音楽計画

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M08はセリフシーンで、セリフのあと映像が入り主人公が感動する。。。という筋書きだった。

画像にも「主人公・泉の精の会話で暗め明るめの和声を入れ替える。会話のターンは音楽に合わせる。」とある通り、そこで作曲チームは出来事とセリフを考慮しながら音楽を作ることにした。

当時の段階ではまだセリフは決まっていなかったため、筋書から恐らくこのようなことを言うだろうという予想を立て、独自のプロットを書き、それを元に作曲できるようにした。

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↑作曲チーム2人で書き上げた独自プロット。演技チームの2人もこれを元にセリフを書いた。

M09は花が一面に咲くシーンを想定していた。しかしM08の中で行われてしまったため、M09は欠番となった。

 

M10は主人公が歌うMarchのような前向きな曲。

M11はM10とM12を繋ぎ、かつセリフが入ることが決まっていたのでBGMのような背景を担当させることが計画された。

 

<第2部シーン2 作曲>

M08「刻の花」(作曲:城谷伶 佐藤匠)

この劇の創作を始め最初に城谷さんと私の共作で書いた曲だ。アタッカでM07から止まらずに始まる。

作曲の進め方については音楽計画の所と重複するので割愛する。「花」に関わる大切なセリフの所でM05「花」のモチーフの断片を使用し、また明暗のコントラストを特に意識して作曲している。途中から映像が入るためシーケンスを利用し同期させた。

反省点としては、後半「花」のメロディーを対位法的に展開するのだが、その部分がメロディーと和音という少ない要素のみで構成されてしまったことと、テンポが遅めだったことにより、振り付けを行う際に手持ち無沙汰になってしまうという点が挙げられる。映像が入ることにより緩和されたものの、映像を制作する際に映像と音楽をどのように絡ませるかが難しく、もし改善をするのであれば「動き」が浮き出るように修正するべきだろう。

 

M10「はじめの一歩」(作曲:佐藤匠)

主人公の気持ちが明るくなって、前向きに歌う一曲。歌詞はマヤから5月ごろ受け取って、ほんの2小節ほど手を入れたものの殆どそのままに書き上げた。練習室で話し合っていた時に歌詞の解説をマヤにして貰い、その場で曲のイメージを固め、もう次の日にはメロディーが決まってしまうほど決定的な歌詞であった。

当時私はマヤに対して「とてもポジティブで明るい性格」と思っていたのもあり、「なんて前向きなんだ。これはマーチのようにするべきだ!」と確信し、6/8のマーチ風の楽曲に仕上げた。しかし今となっては、前向きではあるのだが、心に抱えているものがあるような、前を向きたいと力を振り絞っているような、想いの詰まった歌詞のように思える。

 

「はじめの一歩」

今日がどんな日でも  明日(あした)はすぐにやって来るから

振り返っても 後ろ向きでも

この時を噛みしめて、進み続けるのさ。

 

あの気持ちは・・・

悲しい?怖い?

前を向こう!

 

この気持ちは・・・

嬉しい?楽しい?

逃さずに捕まえて。

 

あの輝き忘れないで この輝き感じるの!

 

自分が大きくなって 世界がもっと近づいて

踏み出したこの一歩は さっきよりもずっと大きい

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↑M10のリードシート。上手くメロディーが書けず歌詞を変えたりメロディーを再考したりしている。この時点ではEs durだが後にD durに変更する。

 

この曲で苦労したのはオーケストレーションだ。あまりジャカジャカさせると歌詞の良さが伝わらず、かといって音数を減らせば明るさが半減してしまう。絶妙なバランスが難しい。最初は弦楽でキレのいいアーティキレーションで4~5声のみのアンサンブル。次第に楽器を増やしていくという、よく言えばシンプルな、悪く言えばありがちな手法を取った。歌い手の音域や特徴もあり結果的にはベストマッチだったのではないかと思う。(ここだけの話、新海誠監督の映画「天気の子」を見に行った直後に編曲をしたため、とても影響を受けている。9thの使い方やオーケストレーションはかなり参考にした。)

芸祭の公演ではヒナのパートも追加した。このパートはヒナ自身が考えてくれた。このパートはVocalizeだったが、「ラ」で歌うか「タ」を使うかなどこちらもアーティキレーションには気を遣った。

youtu.be

 ↑芸祭での公演が終わってからマヤと二人で録音したもの。この曲は何度も心の支えになったと思う。小さな幸せを少しずつ拾うことを忘れてはいけない。

 

M11 (作曲:佐藤匠)

M10とM12の繋ぎの曲。M06と同じく、セリフを邪魔しないようにシンプルに。

反省点を挙げるとすれば、M10のE durからM12のC durに少ない尺でもっていかなければならず無理やりに繋いでしまったことだ。もっと勉強して綺麗な繋ぎを作れるようになりたいし、調性について最初から計画的に進めておくべきだったと思う。

 

<第2部 シーン3>

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ここからは面白いくらい曲の内容が書かれていない。白紙じゃねーか。

辛うじてMナンバーだけ書かれているが。。。

 

正直に言うと、このシーンは中々思いつかず3か月も時間がかかってしまった。

理由は明白で、この通り内容がはっきりしていなかったためである。

この部分は特に音楽が全てを決める場所であったため、中々イメージが作れなかったのだ。

 

M12では主人公と泉の精が夢の中にある森を探検する明るいシーン。

M13は主人公の心が潤いで満たされ、それにより泉が復活するというシーン。

M14は泉の精のソロの歌で、次第に音が遠ざかり現実世界に戻っていくというシーンだ。

 

<第2部シーン3 作曲>

M12「森の奥へ」(作曲:城谷伶 佐藤匠)

主人公と泉の精が森の奥へ探検に行くというシーン。 先述した通り作曲は難航し、どのような曲にすべきなのか、演技チームのマヤとヒナに何度も相談し、深夜まで電話したこともあった。

テーマは子供時代に戻ったかのように、無邪気に好奇心に任せて歩みを進めていくというものだ。M10からの引継ぎで6/8拍子。主題はM07「夢」のモチーフ【C.D.G】を取って、ミクソリディア旋法を用いて作られた。この旋法のいいところはコロコロとした可愛い印象のメロディーになる所だろうか。(エレクトーン界隈の人ならわかると思うが、睦樹先生「コミカルトレイン」もこの旋法と取ることが出来る。)

主題の部分のオーケストレーションは敢えて、クラリネットに高音域を吹かせたり、フルートに低い音域を吹かせるなど、通常ではおかしい編曲にした。おどけた感じにしたかったからだ。またマリンバやストリングスのピチカートも加え、コロコロとした音色に仕上げた。

また、この曲の途中で泉の精が消え同時に主人公が「花」を見つけ、時が止まったようになるというシーンがある。ここのシーンについては演技チームからの要望で急きょ変更をすることになった。M05の前奏部分を引用し、和声も復調を使い突然神秘的な雰囲気を醸し出せるようにした、

 

M13「泉の復活」(作曲:佐藤匠)

ここは泉の精が神々しい光とともに再登場するシーンであり、ワクワク感やキラキラした音色感が欲しかった。そこでライヒなどのミニマルミュージックを参考にポリリズムを取り入れた。素材はM01からしばしば使われる長2度の揺れであり、ワクワク感を演出するためリディア旋法を何度か転調させまとめた。構成としては大きく2つに分けることができる。「リディアによるポリリズム」「複数声部によるカノン」の2つだ。最後はゲネラルパウゼにより頂点で無理やり終わらせられ、息を飲むような眩しさを表現した。

オルガンのように右手で2声部、左手で1声部、足鍵盤で2声部弾くことになってしまい、劇中の曲の中で最高難度を誇る。

 

M14「鏡の森」(作曲:城谷伶 佐藤匠)

劇中で唯一ひなが歌う曲。Vocalizeで歌われるが、ヒナの特徴でもある圧倒的な高音域と歌声の明るさ、声楽で培った響きの豊かさを活かし作曲した。(ヒナの音域は五線の外の上のCが出てしまう。)無調というほどではないが、調性で見れば不安定であり、作曲する際、城谷さんがピアノで和音を、私がメロディーを歌い、その場で即興的に作った。

歌い手との密接なアンサンブルが必要で、エレクトーンの特徴を生かした1曲だ。

 

<第3部>

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第3部は主人公が夢から醒め、現実世界に戻ってきた所から始まる。

効果音SE-3は朝の鳥のさえずりで、朝の訪れを表現する。

 

計画上では色々書いてあるのだが、この部分を長々とやっても無駄ということで、第1部との対比を出すことを念頭に演出が作られた。

劇の最初からキーアイテムとして使われる「花」を主人公が見つけることになったため、M05の「花」のモチーフの断片を使うことになった。

また、「夢は醒めると忘れてしまう」ということで、儚く消えていってしまうようなイメージを共有した。

 

M16は不必要となり、廃案となった。

 

<第3部 作曲>

M15「花の記憶」(作曲:佐藤匠)

夢の世界から帰還し、おぼろげに夢の中での記憶が残っているような心の様子を描いた曲。ここでも例によってM05「花」のモチーフを引用し、異なる和声を付け変容した。オーケストレーションはシンセやパットも多用し、風にのって何もかも流れてしまうような切ないイメージに仕上げた。

 

 全体を通して

 初めての劇の音楽の作曲ということで分からないことだらけだったが、演出家や脚本家との密接なコミュニケーションがとても重要であるということを痛感した。必ず成功するやり方などは勿論存在せず、よく話し合い相談することで、少しずつイメージを固め共有し完成へと向かっていくことができるのだと思う。

 

また、後々色々な変更はあるものの、決まったことや共有したことは音楽計画表のように文字や表として書き表し、ビジュアル的にわかりやすくまとめることで、キーポイントとなることが見えやすくなるように感じた。

 

自分が納得していても他の制作メンバーが納得できなかったり、自分が満足いっていても変更があったりと、音楽を書く人間としては精神的に厳しい部分もあったが、お互い妥協せず、各々を理解しながら進めていけたことが、学生としてこの劇の創作に関わって最も学んだことの1つだと、私は思う。

(特に作曲面でマヤの提案に否定から入ってしまったのは、私が特に反省すべき点だったと思う...)

 

今日はここらで。

それでは。